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「昼からナイトミュージアム」展から見えてきたこと・感じたことー担当学芸員に聞きました


会場:
大東市立歴史民俗資料館
企画名:
令和5年度夏季企画展「昼からナイトミュージアム―くら~い展示室で、みる!きく!さわる!たのしむ!―」
開催期間:
令和5年7月29日(土)~9月10日(日)

昔の灯りの道具や、触って様々な素材感や重さ、形状の違いを味わう展示、使用する音や動作から資料の使用方法を考える展示など。照明を暗くした展示室で、五感を使って鑑賞する仕掛けをたくさんちりばめました。

チラシおもて

〇朝日新聞デジタル 「ようこそ暗闇の世界へ
昼から『ナイトミュージアム』大阪・大東市で」2023年8月31日

https://www.asahi.com/articles/ASR8Z72WZR8TOXIE01R.html?iref=pc_photo_gallery_bottom

企画担当をした森井綾乃学芸員に聞きました

1.今回の企画は、どうやって思いついたのですか?

同じく、「昼からナイトミュージアム」というタイトルを使った展示を、8年前の平成27(2015)年にも行いました。前回も、暗い展示室が子どもたちに大人気だった展示です。展示室を暗くするアイデアは、8年前子どもに展示を楽しんでもらうしかけについて、私も含め当時の歴史民俗資料館スタッフで案を出し合っていく中で生まれました。現代美術作家であるクワクボリョウタさんの、影を使った作品(クワクボリョウタ公式HP https://www.ryotakuwakubo.com/)などから着想を得て、影を通して資料の形状に注目する「民具の壁」などの展示を作りました。

(写真:平成27年度なつやすみ展「昼からナイトミュージアム」展示風景)

展示室を暗くすることや、五感で楽しむといった趣旨は8年前から受け継いだ形で、展示内容や構成を新しく作り直して「昼からナイトミュージアム」展を行いました。暗い展示は、やはり今回も多くの方に楽しんでいただくことができました。

2.会場を「暗くする」ことのねらいを、おしえてください。

スイッチひとつで簡単にあかりをつけることのできる現代では、真っ暗な状況を過ごすのは、ほとんど寝るときのみとなるかもしれません。あかりのない部屋では、いつもより感覚が研ぎ澄まされて、ちょっとした物音が気になったり、触っているものが何か気になったり。身体が視覚以外からの情報を得ようとします。展示室を暗くすることで、昔の道具を使用するときの「音」や、「手触り」、「重さ」などといった、見た目以外の情報を体験しやすい状況をつくりだし、いつもとは違う鑑賞体験をしてもらうことをねらいとしました。

(写真:左/企画展へ向かう階段。上った先では、「幻灯機」で映し出しているフィルムを、プロジェクターで投影している、右/展示の導入となる案内板)

3.展示資料は、資料館で収蔵または保管されているのですか。

資料館で保管しているものが多いですが、今回の展示内容に合わせて借りてきたものも色々と展示していました。企画展や特別展といった期間限定の展示は、その展示の時にしか大東市立歴史民俗資料館では見られないようなものが、特別に展示されたりしますので、ぜひ足を運んでいただきたいです。

4.森井学芸員の「お気に入り資料」はありますか。

「幻灯機」という道具を今回初めて展示しました。これは資料館で保管しているものではなく、今回の展示のためにお借りして展示をしました。「幻灯機」は、現代でいう「プロジェクター」のような道具で、小さなフィルム(もしくはスライド)の画像を大きく映し出して、大人数で一緒に見て楽しむための道具です。紙芝居のように、物語などを楽しむときもあれば、学校の授業で使うなど、絵や写真をみんなで見ることに使われました。映画やテレビがまだなかった時代に生まれた道具です。

(写真:左/「幻灯機」(個人蔵)展示風景、右/「スライド」(個人蔵)展示風景)

また、今回の展示の関連イベントとして、この「幻灯機」を使って、「青い鳥」や「シンドバッドの冒険」、「シンデレラ」「おおかみと子やぎ」といった4つのお話会を行いました。お話は、歴史民俗資料館と同じ建物にある、大東市立東部図書館の方に読んでいただきました。

(写真:9月9日展示関連イベント「幻灯機」でよみきかせ 風景)

5.とくに、「ここは工夫したぞ!」と思うところはどんなことですか?

今回の展示のアンケートでも多く書かれていたことですが、とくに子どもの皆さんはクイズが好きですので、クイズとして展示を楽しんでもらえるようにしました。まず、チラシにはキーワードクイズを載せていて、展示全体のなかから文字を探してもらうようにしました。

チラシうら

また、「触ってみよう ものの素材くらべコーナー」では、ただ触ってもらうだけではなく、それが何なのかや、同じ素材の資料がどれかを考えるクイズにしてみました。ちょっとしたこだわりとしては、さわる箱の数字を立体的にしているところもポイントです。触るコーナーなので、数字も触ってわかるようにしました。

(写真:上/「触ってみよう ものの素材くらべコーナー」 展示風景、下/触ってもわかる数字)

「聴いてみよう 道具の音あてクイズ」では、初めてのアニメーションづくりに苦労しました。道具の音を、聴こえない方にも楽しんでもらえるように、オノマトペも加えました。(「道具の音あてクイズ」の動画は、Youtubeでご覧いただけますhttps://youtu.be/T9Ltjn31IoI

(写真:上/「聴いてみよう 道具の音あてクイズ」 展示風景、下/アニメーション「道具の音あてクイズ」)

8年前の「昼からナイトミュージアム」展では、資料のキャプションやパネルといった文字の書かれたものがない展示となっていましたが、今回は暗い展示室でも、パネルを読んで資料の情報も楽しむことが出来るようにしました。展示室の入口で、懐中電灯を借りて持っていくことが出来るようにして、照らしながらじっくり見ることが出来るようにしました。

(写真:左/懐中電灯を持って、展示室へ出発!、右/展示関連イベント「展示室でクイズラリー」 イベント風景)

8年前に展示をしたときに、子どもの皆さんが暗い展示室を肝試しのような感覚で楽しんでいる様子をよく見かけましたので、さらにそういった感覚で楽しんでもらえるように、「灯りの道具迷路の部屋」では、展示室を迷路にしました。迷路を進みながら、昔の明かりの道具や、燃料、火をつける技術などについて知ることができるような仕掛けです。また、迷路の行き止まりには「火消し壺」や、火事の際に消火活動で使われた「龍吐水」を置いて、火を消されてしまう、という設定にしました。

(写真:左/行き止まりの「龍吐水」、右/行き止まりの「火消壺」

6.企画を考えたり、展示したりして、楽しかったこと、苦労したことは何ですか?

子どもの皆さんが、どんな展示にしたら楽しんでくれるかな?と考えるのも楽しかったですし、実際に展示を見て楽しんでくれている様子が見られて嬉しかったです。コーナーやパネルのある場所がわかるように、「行灯」風の目印を作ったのですが、中の灯りの電池を毎日入れ替えて充電したり、スイッチをつけたり消したりするのがとても大変でした。またこういった暗い展示をするときには、手間をかけないように工夫をしたいですね。

(写真:「行灯」風の目印 展示風景)

7.参加された方の感想は、どんな声がよせられましたか。

展示のアンケートがたくさん集まりました。「いつもと違う雰囲気で、わくわく楽しかったです!」や、「クイズ形式で楽しく回れるし、暗くしてあるのがお化け屋敷みたいで、わくわくしました!」「展示方法がよく工夫されていた」などといったことを書いていただきました。また、新聞にも載せていただいたので、記事を見た大人の方にも多く来ていただいていました。相変わらず子どもの皆さんにはクイズが人気なので、またクイズの多い展示をしたいと思います。

8.学芸員のおしごとについて、やりがいや醍醐味(だいごみ)についておしえてください。

展示やイベントの準備をしているときには、いつも「来てもらえるかな?」「楽しんでもらえるかな?」と不安な気持ちもあります。ですが、実際にやってみて、たくさんの人に見に来たり参加してもらって、アンケートで感想を知れたり、声をかけえもらえたりしたときにすべての努力が報われるな、と感じます。
昔の資料を保管して、未来に残していくために、たくさんの人が関わって一生懸命働いています。資料のことを子どもから大人まで、また大東市内外の多くの人に知ってもらい、好きになってもらえるように、これからも色々な展示やイベントなどを行っていきたいと思います。